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造形力を効果的に身につけるためにはアイドルを持とう(建築学科 准教授 山口雅英)

研究室からこんにちは(建築学科)
こんにちは。建築学科で造形基礎科目全般を担当する山口です。
 今年入学されたみなさん、学習の進み具合はいかがでしょうか。造形を学習していくことは、これまで学んできた他の学習とはかなり様子が異なり、戸惑いも多いのではないかと思います。制作に必要な知識や技術については習うことも調べることもできます。しかし、そうした技術や知識を活用して最終的に自分が何をどう作るべきか、自分自身で模索していかなければならない、これが造形の学習における戸惑いの要因になっているのではないかと思います。
 以前、高等学校の美術の授業で「美術ってどういうことだと思う?」と尋ねたところ、もっとも多かったのが「自由に自分の世界を表現する」という答えでした。さてあなたは「自由に自分の世界を表現してみましょう」と言われて、「待ってました」と直ぐに取りかかることができるでしょうか。
 「自分の世界」とは何でしょう。先ず、そのこと自体がはっきりしません。究極の回答を述べることもできませんが、とりあえず、こんなふうに考えてみてください。「あなた、そしてあなたの世界はあなたの関わったもの、選んだものでできている」と。自分の世界というと、ともすると自分の心の中心を深く深く探っていくようなイメージを持たれるかも知れません。勿論それも大切。しかし反対に世界と繋がっている自分に眼を向けることも自分の世界を見つめることになるのです。
 特に重要なのが、アイドルを持つこと。ミュージシャンであれば、音楽の世界への第一歩は大抵、自分のアイドルとなるミュージシャンのコピーから始まるもの。コピーにあきたらなくなり、オリジナルを作り始めても、それまでコピーしてきたものが必ずベースになっています。あのビートルズも、チャック・ベリーやエルビス・プレスリーといった初期のロックンロールのスターをアイドルとし、その影響からスタートしています。シュールレアリズムの巨匠、サルバドール・ダリもフェルメールに深く傾倒し、その写実的描画の手法に影響が色濃く現れています。また、アイドルとは少し違うかも知れませんが、マネやモネ、ゴッホといった近代の画家達が日本の浮世絵に、またピカソやモジリアーニがアフリカの彫刻に多大の影響を受けそれぞれの作品に展開していったことも有名な話です。
 私の世界、私の個性とは決して私だけで作るものではないのです。むしろ個性的な人ほど、外の世界に敏感であるとも言えます。造形もれっきとした文化活動のひとつ。先人の築いたものの上に積み上げていくものです。作品の中の2割が独創的であれば、十分その人のオリジナルだと言っても過言ではないと言われています。良いと思うものをしっかりと吸って、咀嚼したものを自分の表現として吐き出していく。健全な身体に健全な呼吸が必要なように、健全な表現にもこうした健全な呼吸が必要なのです。あなたはどんな建築家やデザイナーが好きですか、どんなところが好きですか、と聞かれて直ぐに答えられるように、好きな建築家やデザイナーを見つけ出し、じっくり鑑賞するようにしてください。
アイドルはすなわち目標。学習をもっとも効果的に行うための明確な目標を持つこと、これは造形の学習に限ったことではありません。逆に好きな建築家やデザイナーを持つことができると造形の学習は格段に捗ります。このことを念頭に積極的にいろいろな作家のいろいろな作品に触れるようにしてください。