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哲学の古典的名著の新訳について(国際コミュニケーション学科 三苫民雄)

研究室からこんにちは(短期大学)
 このところ私は西洋哲学を概観する入門書を執筆しています。プラトンから20世紀のヴィトゲンシュタインの哲学に至るまでの哲学者たちがどういう問題に取り組んで、どのような文章を書いてきたかということを、実際に彼らが書いた一節を引き合いに出しながら、読み解いていくというスタイルです。
 このスタイルにしたのには、哲学者たちの思想年代順に概説するだけではなく、実際に古人はどのように思想を紡ぎ出してきたのかということを、翻訳ではありますが、古典的名著の文章に触れることで体感してもらおうというねらいがあります。加えて大学で哲学書の読解演習をしているようなライブ感が出せると理想的です。2024年中にそれなりに名の通った版元から出る予定ですので、店頭で見かけたら、ためらわずにレジにお持ちください。
 さて、この本の準備中にこれまでの哲学の古典を読み返しながら、学生時代にお世話になった古典的名著も、それぞれ翻訳者が変わり、昔ながらの岩波文庫の青帯にもいくつかの入手しやすい文庫版や新書版の新訳が登場していることに改めて気付かされました。
 新訳はやはり改めて出版されるだけのことはあって、旧訳よりも読みやすく、わかりやすくなっていることが多いようです(中には例外もありますが、これは講義中にお伝えします)。ここでは以下に現在入手しやすい新訳の哲学書の文庫本を3冊と単行本1冊をご紹介しておきます。

1 プラトン『パイドン』(岩田靖夫訳、岩波文庫)
2 デカルト『方法序説』(谷川多佳子訳、岩波文庫)
3 ライプニッツ『モナドロジー』(谷川多佳子、岡部英男訳、岩波文庫)
4 スピノザ『エチカ』(スピノザ全集第Ⅲ巻、上野修、鈴木泉訳岩波書店)

 どれも新しい訳者を得て明快で読みやすい日本語訳に仕上がっています。結果的に岩波書店のものが並んでしまいましたが、昔は哲学の古典といえば、岩波書店の難解な訳文が標準的と思われていたものです。原書と付き合わせてようやく意味がわかるものもたくさんありましたが、これらの新訳はいずれも日本語の文章だけで理解可能です。なお4のスピノザの『エチカ』については以前の畠中尚志訳も名訳だったと思いますが、現在『スピノザ全集』全6巻中3巻が刊行されています。この機会にぜひ全巻買い揃えて家宝にしてください。
 なお、この中でも第3巻『エチカ』は数学の定理集のような体裁で書かれた一見とっつきにくいスタイルですが、丹念に読み進めていくと、最後は音楽的な感動に近いものを覚えます。プラトンの師匠ソクラテスで始まった「善く生きる」ための哲学はスピノザで一つの完成を見たと私は考えています(このあたりの詳細は刊行予定の拙著をご覧ください)。
 今回取り上げた4冊はいずれも哲学史上画期的な名著ですので、機会があればぜひ手にとってみてください。