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進化論と造形教育2(建築学科 山口雅英)

研究室からこんにちは(建築学科)
 前回は生物の進化のあり方とデザインということについて述べてきました。生物は先を見通し、目標をたて、それをめざし何かをどうしていくか計画をたて実行していくという活動、つまり「デザイン」をすることができません。ただ自然に身を委ね、変異するままに変異し環境による選択を受け入れていくだけです。 
 デザインができるのは人間だけです。デザインができるようになるためには、今ここにないもの、未だ起こっていないことをイメージする力が必要です。「今はこういうものはないけれどこういうものができたら便利だろうな、生活が豊かになるだろうな」ということが考えられなければデザインをすることはできません。
 さて、言葉を持つ生き物は人間だけではありません。いろいろな動物が音や身振り、フェロモンなどの化学物質によって情報を交換しています。これらは一種の言葉だという言い方ができると思います。ところが人間の言葉には他の生物にはない決定的な特徴があります。それは「今ここにないもの、未だ起こっていないこと」について語ることができるということです。また人間の言葉は部品(単語)と構造(文法)によってできているため、例えばある言い回しの構造はそのままに部品だけを入れ替えることで様々に発展させていくことができます。これに対し、他の生物は「餌があった」「敵が来た」「おれは怒った」など、その時に起こっていることしか表すことができません。言葉は精神活動とリンクしています。人間がデザインという活動ができるのはこのように言葉を扱うことのできる精神のあり方と深く関わっています。
 人間以外の生き物、こうした力を持たない生き物たちは自然の変化と環境に身を委ねるしかないのです。しかし、自然な変化と環境に身を委ねるという方策は悪いことばかりではありません。反対にデザインできるということも実は良いことばかりではないのです。例えばもしも動物もデザインができたら…と考えてみましょう。
 ある動物が「どうも今は温暖化でどんどん暑くなるらしい。そこで暑い環境に合うように自分の体を変えていきたい」と考えたとします。そしてまわりにいる動物も「それはもっともだ」と同じように熱い環境に合う体になっていったとします。みんなが一斉に同じ目的、方向を向いて変化していった。ところがある時隕石が地球にぶつかり、その時に出た噴煙で全てが覆われ、太陽の光の届かぬ寒冷な環境になってしまったらどうでしょう。こぞって温暖気候対策をしてきた動物たちは寒冷な環境に対応できず、絶滅してしまします。しかし実際にはそんなことはありません。生物はみなが一定の方向に変異をしていくということはありません。むしろ見通しも目的も持っていないが故に、環境に関わりなく常にありとあらゆる変化を起こしているのです。温暖化が進む、寒冷化が進む、あるものは適合的ず死に絶えますが、あるものは環境に適応して生きながらえていくことができる全滅を免れることができるようになっているのです。あらゆる変化、すなわち多様性です。生物は多様性をもってどんな環境であれ生き残るものがいるようにしているのです。
 これまでになかった新しい環境に適合して生存していける。これはすなわちこれまでになかった新しい価値の獲得です。これはすなわち創造的な活動だと言えます。なりゆきまかせのような生物の進化は実は先が見通せない状況でいかなる環境にも対応して種を残していくための創造的な活動だったのです。
前回の最後に「本当にデザインのみで人間は生き延びていけるのでしょうか」と書きました。さて人間がデザインのみで生きていけるためには、極論すれば完全に先を見通す力があるかどうかにかかってきます。人間は築き上げた叡智により、未来を予測する力を持つことができました。しかしそれでも完全に予測し、また対応できていると言えるでしょうか。あなたはあなたの明日に確信が持てているでしょうか。