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特定の反対は総称か!?(国際コミュニケーション学科)

研究室からこんにちは(短期大学)
 日本人にとって冠詞の習得は困難である。特に抽象名詞と冠詞との共起は難解な事柄である。筆者は名詞の意味素性として、定性(definiteness)、特定性(specificity)、総称性(genericity)に注目し、抽象名詞と冠詞の共起を考えてみた。定性と特定性が冠詞選択を支配するパラメータの2つの主要な特性であり、L2学習者が正しいパラメータをセットし冠詞を使用することができない流動性を生み出している。定性により冠詞が決まり、その後特定性から冠詞の選択が起こる(Ionian et al. 2004)。今回、さらに総称性を特定性の補助的な機能として考えてみたい。定・不定は聞き手の立場からの分類である。即ち、聞き手が知っている(と話し手か認める)名詞(句)が 定名詞句(definite NP)となる(Chafe 1976; 金水 1986)。特定性とは、対象の名詞(句)が具体的に指している対象を話し手が頭に思い浮かべているかどうかを表す概念である(Ionin et al. 2004; 石田 2002)。総称性とは「共通の特質を持っている組ないしは類を全体として表象しているかどうかを示すもので、統語上の概念というよりも意味論上の概念である」(石田 1994)。表1は各種類の名詞(名詞句ではない)が総称性を表す例である。なお、△は単語による(意見も分かれる)ことを表している。



 次に実際の文中での名詞句についての、定性、特定性、総称性を表す例を提示する。
①  I accepted the solution (+d +s -g) to the problem.
 聞き手も話し手もわかっている。
② I will accept the solution (+d -s -g) that you may propose.
 聞き手はわかっているが、話し手はわかっていない。-s –g(特定性と総称性が反対になら
ない例、弱い特定性を表している。
特定性は、-s, +s, ++sと3段階に分けて2番目になる。2段階に分けると-sか +s かは議論の分かれるところである。そこで特定性をより厳密に3段階(-s +s ++s)に分けることを検討中である。
③ There is a certain solution (-d +s -g) which I cannot remember.
 聞き手はわかっていないが、話し手はわかっている。
④ Let’s think of a solution (-d -s -g) to the problem.
  聞き手も話し手もわかっていない。-s –g(特定性と総称性が反対にならない例)
⑤、⑥のように特定性と総称性を同時に表す場合がある。つまり全体を特定する場合である。
⑤ War (+d +s +g) in any/a country should be avoided.
 どの国かは問わず一般的な国の「平和(戦争のない状態)」が述べられている。
⑥ Don’t you know the nation has always been involved in war? (-d +s +g)
 聞き手はわからないが、話し手はわかっていて、総称的である。
因みに、以下の文では総称性は表していない。
⑦ The war (+d +s -g) in the country should be avoided.
 1つの限定された国における「平和(戦争のない状態)」が述べられている。
⑤と⑥では定性は +dと-dであり、総称性は共に+g である。つまり、定性と総称性は独立したパラメータである。
⑧ A war (+d +s -g) between the countries should be avoided.
 聞き手も話し手もわかっている。+dでも冠詞がtheではなくaになる場合もある。これ
は弱い定性と考えられる。
⑨ Don’t you know a war (-d +s -g) between the countries?
 聞き手はわかっていないが、話し手はわかっている。
④ Let’s think of a solution (-d -s -g) to the problem. (再掲)
⑨と④では特定性は+s と-sであり、総称性は共に –g である。つまり、特定性と総称性は独立したパラメータである。



 表2は例文をまとめ、意味素性ごとの例文を記述したものだが、定性と特定性という聞き手と話し手の名詞(句)の同定が行われるときに、さらに独立したパラメータとして総称性が存在することは明らかである。言い換えると、定性には総称性を含む場合と含まない場合があると言うことができる。同様に、特定性にも総称性を含む場合と含まない場合があり、反対の概念ではない。この識別の困難さが日本人にとって冠詞や単数形・複数形選択に影響を与えている、もしくは冠詞や単数形・複数形選択を困難にしていると推定される。
 
参考文献
Chafe, W. L. (1976). Giveness, contrastiveness, definiteness, subjects, topics, and point of view. in Li. C. N. (ed.). Topic and Subject. Academic Press.
Ionin, T., Ko, H. & Wexler, K. (2004). “Article semantics, in L2 acquisition: The role
of specificity.” Language Acquisition 12, 3-69.
石田秀雄 (1994) 「冠詞の意味論―特定性と総称性―」 『中部地区英語教育学会研究
紀要』 No. 24  
石田秀雄 (2002) 『わかりやすい英語冠詞講義』 p. 68 大修館書店
金水敏 (1986) 「連体修飾成分の機能」 『松村明教授古稀記念 国語研究論集』 明
治書院 

 (KN)