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少数派の声がもつ可能性 ―親の会「パステル」の取組から― (国際コミュニケーション学科 首藤 貴子)

研究室からこんにちは(短期大学)
●親の会とは
 「親の会」という言葉、聞いたことはありますか?たとえば、障害のある子どもをもつ親の会や不登校の子どもをもつ親の会等、共通の経験をもつ保護者が自主的につながるグループです。その活動は、わが子の困り感やその対応についての情報を共有したり、共通の課題について調査研究をしたり、それを踏まえて行政や学界に働きかけたり、様々な活動をしています。数名の保護者が集まる任意団体から、法人化された全国組織まで、活動規模も多様です。
 本学所在地の愛知県にも様々な親の会がありますが、ここでは、アクションリサーチの一環としてかかわる、愛知県豊明市を拠点とする親の会「パステル」(代表:角岡宏枝さん)の活動をご紹介します。

●「ちょっとズレてる子」の親の会として
 「パステル」の活動に参加する保護者は、わが子が発達障害と診断されている方もいますが、子ども集団の中でわが子が何らかのトラブルを経験し「他の子と何か違う」という気づきの段階の方もいます。昨今、発達障害という言葉が(誤解を含みつつも)ひろく知られるようになったことから、集団の中でうまくいかないわが子の姿を目にすると、「もしかしたらわが子は『発達障害』かも」という疑念につながりやすくなりました。
 多くの親にとって、この「障害」という言葉はとてもとても重い言葉です。子どもの「問題行動」は家庭教育に原因があるとして親に責任を被せようとする世間の目は、未だに健在です。それは「わが子が障害かも」と悩む親自身にも内面化されており、自分で自分を「ダメな親」とみなし苦しんでいる方もいます。
 さらに、親のその疑念は、周囲にも大きな影響を及ぼします。戦後も長く障害児の学習権保障に停滞がみられ高度経済成長期をとおして「能力」主義的な学校システムを構築してきたわが国において、その時代を懸命に生きていた世代――今の子どもたちの祖父母世代――からすると、「障害」は一層衝撃的な言葉に感じられるのかもしれません。実際、そうした親の中には、祖父母に「わが子が障害かも」と伝えた瞬間、祖父母が拒否反応を示した、ありのままのわが子を受け入れてくれない、と悩む方が少なくありません。とくに発達障害のある子の場合、一見しただけではその困り感に気づきにくく上手くできる時もあればできない時もあることから、周囲は、単に「サボってる子」「やる気のない子」とみなし、その保護者に「考えすぎ」「気のせい」といった「励まし」をすることはあるものの、親としての不安な気持ちに目が向かないことも多いのです。
 こうした「障害」に対する差別的まなざしは、今の日本社会に明らかに存在し、たとえ法制度改正によって改善されつつあるとしても、それが今すぐ解消されるわけではありません。成長過程にある子どもたちやその保護者は、そうした社会の変化を待ってはいられません。「パステル」では、このような現実を踏まえて、「発達障害のある子」ではなく、「ちょっとズレてる子」の親の会という看板を掲げています。
 「障害」の診断をとろうがとるまいが、「障害」を受容しようがしまいが、それは親自身が自分のペースで考えていけばよいこと。今、一人で抱えている子育ての悩みがあるならみんなで共有しましょう。このような「パステル」の方針が、日々困っているにもかかわらず支援にたどり着くことが難しい保護者の方々をひろく受け入れ、すべての声を尊重しながらともに在ることで癒しやパワーを相互に得るといったセルフヘルプの力につながっています。

●「パステル」の願いはすべての子どもたちの幸せ
 「パステル」の保護者の中には、上述の理由で、どこの誰に相談したらよいのか、迷い悩んだ経験をもつ保護者がいます。子どもの「問題」で混乱の只中にあったとき、あちこちの相談窓口に行くものの、がっかりして帰ったことも度々、と言います。「様子を見ましょう」で終わってしまうと、何の手がかりも得られず希望が見いだせないのです。
 そこで、保護者の悩み別に相談窓口を示せば適切な支援につながりやすくなるのではないかという発想から、「パステル」の拠点である豊明市の相談先を調べ、自分たちが経験した悩み別に相談先を示した『子育て相談先ガイド』の作成に挑戦しました。行政機関の相談窓口を整理するためには、行政組織を理解する必要があります。どこに窓口があるのか、どのようなスタッフ(教師、保育士、保健師、栄養士等)が担当しているのか等々、豊明市職員の方へのインタビューで理解を深めました。こうして完成した『ガイド』は、2021年5月、豊明市教育委員会の協力を得て市内全小中学校で配布されました。
 「パステル」の保護者による活動は自身の経験を今困っている保護者に生かしてほしいという率直な想いが原動力となっているのですが、こうした想いをひろく伝えようと試みるプロセスにも意義があります。多くの保護者や先生方の一助となるようにより良いものにしようと試行錯誤する活動自体の意義です。この活動は、保護者の間での、地域の子どもたちや学校をとりまく環境を根本的に問い直すという話し合い――たとえば、わが子の発達にとって、さらに、わが子を支える/わが子とかかわるすべての子どもたちの発達にとって何が大切なのか、そのとき学校教育はどうあるべきか等――でもありました。集団の中でトラブルに巻き込まれがちなわが子の問題は、すべての子どもたちの問題でもあるからです。「ちょっとズレてる子」という少数派の保護者だからこそ、その声には、すべての子どもにとってより良い教育を創造するためのヒントが含まれています。

※参照:親の会「パステル」ウェブサイト

 https://ameblo.jp/pastel2018