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日本人が英語の名詞の単数形・複数形や冠詞の共起に誤用が生まれる理由とは!?

研究室からこんにちは(短期大学)
 冠詞の誤用は主に、①冠詞の省略(Thomas 1989, 和泉・井佐原 2004など)、②定冠詞と不定冠詞の誤用(Ionin et al. 2004など)が見られる。冠詞の省略は、上級レベルの英語使用者でも犯す誤りである(Goad and White 2006)。冠詞選択のエラーに関しては、不定冠詞の位置に定冠詞を用いる多く過剰使用が報告されている(和泉・井佐原 2004, Goad and White 2006など)。
 日本人L2英語学習者にとって、冠詞の使用法、特に抽象名詞の場合にわかりにくい理由は、①抽象名詞の可算化(単数形か複数形か)・不可算化の特定、②冠詞の付与、が考えられる。
 可算名詞の場合には名詞は単数形か複数名詞となり、単数形の場合は、大きく不定冠詞aが付与される場合と定冠詞theが付与される場合があり、複数名詞の場合は、大きく定冠詞theが付与される場合と無冠詞の場合がある。



 不可算名詞の場合は、複数形はなく、冠詞も定冠詞theが付加されるか否かに過ぎない。不可算名詞は物質名詞のような具象名詞か、抽象名詞となる。どのような条件で抽象名詞のような不可算名詞が可算名詞となるのかの研究はほとんどない。



 定性(definiteness)は聞き手の立場からの分類である。即ち、聞き手が知っている (と話し手が認める)名詞句が 定名詞句(definite NP)となる(Chafe 1976; 金水 1986)。特定性(specificity)とは、問題となっている名詞が具体的に指している対象を話し手が頭に思い浮かべているかどうかを表す概念である(Ionin et al. 2004; 石田 2002)。石田 (2002) は定性から、織田 (2002) は特定性から、名詞につける冠詞の条件を説明しようとしている。Ionian et al.(2004)は定性と特定性が冠詞選択を支配するパラメータの2つの主要な意味素性であり、L2学習者が正しいパラメータをセットし冠詞を使用することができない流動性を生み出しているとしている。定性により冠詞が決まり、その後特定性から冠詞の選択が起こる。つまり、定性が特定性より影響力が強い。当然、[+definite -specific]、[-definite, +specific] の場合、定性か特定性かどちらにより大きな影響を受けるのかが問題となるが、定性により大きな影響を受けていると考えられる。

 母語話者の第二言語獲得における冠詞の個別性と普遍性について、Hawkins et al.(2005)は、母語話者は定性を基に、日本人L2学習者は特定性を基に冠詞を選択するとしている。以下がその内容である。

1. 定性に基づいて冠詞を選択する場合 (D=determiner:限定詞)
① [D, -definite, +singular] : a(n) * 抽象名詞の場合は、すべてが a(n) と共起
するとは限らないと思われる。
② [D, +definite, ±singular] : the
③ [D] : φ * 内容は明示されておらず。[D, -definite, -singular] と推察される。

2.特定性に基づいて冠詞を選択する場合
① [D, -specific, +singular] : a(n) * 抽象名詞の場合は、φもあり得ると思われ
る。
② [D, +specific, ±singular] : the * 抽象名詞の場合は、a(n)もあり得ると思
われる。
③ [D] : φ  * 内容は明示されておらず。[D, -specific, ±singular] の一部だと思
われる。
 
 上記内容から、日本人L2学習者は単数形で[+definite -specific]の時、theの代わりにa(n) をつける誤用を多く、複数形で[-definite +specific]の時、a(n) の代わりにthe をつける誤用を多いと推測される。以下をまとめると表3のようになり、[+definite -specific]、[-definite +specific]で定性の影響と特定性の影響により冠詞の使用に違いができることになる。即ち、日本人の誤用につながると考えられる。



参考文献

Chafe, W. L. (1976). Giveness, contrastiveness, definiteness, subjects, topics, and point of view. in Li. C. N. (ed.). Topic and Subject. Academic Press.
Goad, Heather and Lydia White. (2006). “Prosodic transfer: L1 effects on the production of L2 determiners.” Proceedings of the 30tth Annual Boston University Conference on Language and Development, pp. 213-224.
Hawkins, Roger et al. (2005). “Accounting for English interpretation by L2
learners,” ms., University of Essex.
Ionin, T., Ko, H. & Wexler, K. (2004). “Article semantics, in L2 acquisition:
The role of specificity.” Language Acquisition 12, pp. 3-69.
石田秀雄 (2002) 『わかりやすい英語冠詞講義』 p. 68 大修館書店
和泉絵美・井佐原均 (2004) 「日本人英語学習者の英語冠詞省略傾向の分析」 『日本人1200人の英語スピーキングコーパス』 p. 131-139, アルク, 東京
金水敏 (1986) 「連体修飾成分の機能」 『松村明教授古稀記念 国語研究論集』 明
治書院  
織田稔 (2002) 『英語冠詞の世界』  p. 6 研究社
Thomas, Margaret. (1989). “The acquisition of English articles by first- and second-language learners.” Applied Linguistics. 10, p. 335-355.

(本教員ブログの内容は、『愛知産業大学短期大学紀要33号』2021年3月の「英語抽象名詞と冠詞の共起を、定性、特定性、総称性から判断することの妥当性」西田 一弘 のpp.50-51を基に、加筆修正を加えたものである。)
 (KN)