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紙版画の研究で科学研究費助成事業に採択されました(デザイン学科 山口雅英)

研究室からこんにちは(デザイン学科)
デザイン学科の山口です。このたび、「新しい紙版画技法の開発とその教育教材としての有効性に関する研究」で、平成30年度の科学研究費助成事業(科研費)に採択されました。みなさんは「紙版画」をご存知ですか。小学校低学年の教材として用いられることが多い版画技法なので経験した方も少なくないと思います。私は長年紙版画で自身の作品を制作し、また通信教育部の学生さんにもこの技法を指導しています。
 ところで世間の公募展、コンクールなど見渡しても紙版画で制作している作家さんはほとんどいません。紙版画は小学校低学年の教材、専門的な作家の高度な表現欲求に応えられるものではない、そのように考えられているようです。またそれ以前の問題として、紙版画を教えているところがほとんどありません。美術系の大学では皆無です(教育系の大学になると教材研究として扱うことは多いようですが)。
 しかし、紙版画は小学校低学年の教材にとどめておくだけでは勿体ない、様々な表現の可能性を秘めているのです。学生がこの技法で制作した作品は応募展やコンクールで入選、入賞しています。木版画や銅版画、リトグラフやシルクスクリーンと言った他のメジャーな版画技法と比較しても遜色のない表現力を発揮できるのです。そんな紙版画は小学校の教材の紙版画とはかなり様子が違っています。紙版画は手付かずの未開拓のジャングルと言ってもよいでしょう。好奇心をもって創意工夫すればいくらでも開拓の余地があります。様々な表現の可能性があります。本学の学生のように専門的な作家として活用していける一方で、教育教材としての可能性もまだまだ未開拓、大きな可能性を秘めているのです。小学校低学年のみならず、高学年、中学生、さらに高等学校の生徒にも、それぞれの成長、表現欲求の高まりに合わせて教材とできる紙版画の開発。これが私の研究テーマです。
 授業で版画を経験したことがある方はわかると思いますが、版画は版づくり(製版)に時間がかかり、また用具や技法に対する特別な知識や技術が必要となります。勿論、じっくりと時間をかけて版作りに取り組むのは良いことです。困難を乗り越えて知識や技術を獲得することも重要です。一方でより簡単に、時間をかけず、高い表現力を得ることができ、その分の時間や労力を児童、生徒の試行錯誤、創意工夫、応用したり発展させたりする創造的な活動に使うことができたらそれは素晴らしいことです。紙版画は他の版画技法では出せない表現ができ、また他の版画技法と同等の表現効果をより簡単に出すことができます。
 私の研究で扱う技法の中には大人が趣味として家庭で楽しめるようなものもあります。研究を進めながら順次紹介していきたいと思いますので、楽しみにしていてください。ここではすでに配信している動画の中から私の開発した紙版画技法のひとつを紹介します。みなさんが小学校で体験した紙版画との違いを見ていただきたいと思います。
YouTube動画「エンボス紙版画の技法-製版と刷り」
https://youtu.be/ZCEy2Bc8Vq8

通信教育部デザイン学科 准教授 山口雅英